04. スギの種類は、なんと300種類もあるという。

 

一口にスギの木といっても、その種類は300種もあるらしい。北から南まで日本の各地に杉は分布しているが、秋田スギや吉野スギというように地名から名付けられたものが多い。そのひとつひとつに種類があるようで、合わせて300種と言うことになるようだ。例えば、宮崎県の飫肥スギはアカとクロの2系統があって、15の品種があるという。因みに、九州のスギは挿し木苗が多く、性質の均一な材が得られ、本州などでは実を植えて苗を育てる実生が多く、材には個体差があるようだ。どちらも一長一短とのこと。では、地方ごとの主なスギにはどんな特徴があるのでしょう。

obisugi

● 屋久杉(やくすぎ/鹿児島県)
樹齢1000年以上のスギを屋久スギという。花崗岩の多い地質に生えているために成長が遅く、高温多湿により油脂が多く、腐食に強い。欄間などの装飾や家具材として用いられるが、それは過去に伐採され搬出されなかった残材、もしくは台風などで自然に倒れた風倒木(土埋木)などに限られている。

● 霧島杉(きりしますぎ/鹿児島県)
霧島神宮の神宮林のスギ。風倒木や枯れ木のみの利用のため希少価値が高い。火山灰土壌に育ち、心材は淡紅色、大径木の板材は杢が繊細で「京美人を思わせる優雅さがある」といわれる。

● 飫肥杉(おびすぎ/宮崎県)
飫肥地方で400年前(江戸初期)、伊東藩の財政立て直しに直挿しで植えられたと伝えられるスギ。油脂が多く、強靱で耐久性があり、心材は虫の害にも強く、船材として用いられた。いまは、建築材として多く使われている。

obisugi

●高千穂杉(たかちほすぎ/宮崎県)
神話の国、高千穂の名前が付けられた高千穂スギ。西臼杵郡の標高1000mの高原から産出されたもので、きめ細かい木目の美しさが人気。因みに神話によれば、素戔嗚尊(スサノオノミコト)が、木がなければ舟も作れないだろうと、自分の体毛を抜いて植え、それが杉の木になったという。

● 日田杉(ひたすぎ/大分県)
比較的硬く、強度もあり、最近は建築用材に用いられることが多い。日田市はこのスギを利用した「杉下駄」生産日本一。天然の古木は「いんたろう」と親しみをこめて呼び、銘木として珍重される。

● 小国杉(おぐにすぎ/熊本県)
挿し木苗の植林方法は250年の歴史を持つ。強靭な材で、台風などの災害にも強く折れにくいことで有名。
特有の粘りと艶があり、建築や家具などに多く使用されている。ヤブクグリ、アヤスギの品種が主で、前者は桃白色で、柱、板、建具などに。後者は淡紅色で、構造材などに用いられている。

● 八女杉(やめすぎ/福岡県)
八女杉は、ほぼ真円で生長。その分柾目材がたくさん採れ、端正な良い表情をしている。品種としては、ヤイチやウラセバルが筆頭で、20種類以上。やさしい赤みを持ったものがヤイチ、若干黒芯を持つ品種がウラセバル。壁材などに端正な木肌が生きてくる。

● 久万杉(くますぎ/愛媛県)
豊かな土壌と冷涼多雨な気候で、愛媛を代表する久万林業地。久万杉は比較的軽く軟らかで加工がしやすい。木の質は細かく、挽いた木肌のツヤがよい。また、木目が緻密で心材と辺材の木目幅の開きが少ない。強度は十分にあることから床柱、床材や桁、梁、柱などの集成材として用いられる。

● 魚梁瀬杉(やなせすぎ/高知県)
土佐杉とも言われ、江戸時代から献上用として京都二条城や江戸城にも用いられた。淡紅色で樹脂が多く、時と共に光沢が増す。天然木の出荷はされず、残されたものがわずかにあるのみで、希少価値が高い。天井板や内装材など、高級建材として人気がある。

yanasesugi

● 相生杉(あいおいすぎ/徳島県)
清流、那珂川の上流に位置する、かつての相生町(現在は那賀町)。その地方で生まれるスギ。極めて赤みが強く、いかにもスギらしい天然杉であり、建材として珍重されている。

● 木頭杉(きとうすぎ/徳島県)
急峻で温暖多雨な那賀川流域で育つ木頭スギ。成長が早く、耐久性が高く、腐りにくいほか、強度性能に優れている。奈良、平安時代から都で使用されており、鎌倉時代には下鴨神社の造営、天正年間には大坂城築城に用いられた。昭和初期には、木頭杉の薄板は「阿波の三分板」と呼ばれ、阪神地域では家屋の外壁材や塀周り板の8割を占めた。

● 智頭杉(ちづすぎ/鳥取県)
千代川(せんだいがわ)の上流の智頭町で産出される智頭杉。池田藩によって管理され、江戸時代から高齢杉の産地として知られていた。
造作材や構造材、さらに酒樽の材料としても優良材として認知されていた。心材が濃い赤色で、粘りがあり、均一な木目を持つ。

● 若桜杉(わかさすぎ/鳥取県)
智頭林業と同等の歴史を持ち、近世では天然杉からの樽材生産が盛んに。明治には建具類の製作が盛んとなり、特に若桜戸と称する目の粗い戸板を生産していた。幼齢木の年輪は極めて狭いが、間伐により年輪幅に変化が起きる。
これを通称「目境」といい、木口に如実に現れる。この材は無節材の保証であり、高価に取引。住宅の造作や建具材に利用されている。

● 河内杉(かわちすぎ/大阪府)
吉野に影響されて発展し、植林方法も密植。木目が真っ直ぐで切り口が真円に近く、年輪の幅も緻密で均一。色合いも淡紅色で美しく、粘りがあり、丈夫な良質材として主に柱材に多用されてきた。

● 御山杉(みやますぎ/三重県)
御山杉は、伊勢神宮の敷地内に樹生する杉のこと。中には樹齢500年をこえる巨木もある。神木として育ち、伐採することは許されず、ごく稀に自然災害などで倒れてしまった木だけが市場に出回る。赤みを帯び、木目が細かく、美しい笹杢が見られることも。
希少価値が高く、貴重な銘木として取り扱われてきた。

● 吉野杉(よしのすぎ/奈良県)
吉野川の上流、日本三大美林の一つである吉野林業地。そこから産する杉は最高級ブランド材として有名。元来、樽材生産を目的に木目の詰まった材を得るため、超密植(1ha=8000〜10000本)され、弱度の間伐を数多く行い、完満通直な材を育てる。冬目が硬くて年輪幅が狭く、油分があり、強度が高く、構造材としての利用が多い。

● 春日杉(かすがすぎ/奈良県)
春日大社境内の春日山の杉。風倒木、枯れ木しか利用できず希少価値が高い。心材は赤みを帯び、時と共に茶褐色に味わい深く変色。柾目がはっきりと現れ、美しい光沢を持つ。特に笹杢は天井板、落とし掛け、工芸品などに珍重される。

● 熊野杉(くまのすぎ/和歌山県・三重県)
熊野川流域に産する杉。温暖多湿な紀州の気候で育ち、樹齢800年を超えるものもあるが、多くは植林されたもの。樹齢70〜80年ものは、高級建材や樽材として利用されている。

● 宇治田原杉(うじたわらすぎ/京都市)
お茶で知られる宇治田原町は、町の約7割が森林。杉、檜の人工林はその5割以上。杉は生長が良く、太径木の外側の年輪も円形に近く、良材が得られる。

● 北山杉(きたやますぎ/京都市)
京都市北部、桃山時代から始まったとされる林業地、北山地方で産する杉。その材は通直で、木肌が美しく、亀裂が入りにくいという。磨丸太は無節で年輪が密。一般の杉丸太より曲げ強度も強く、数寄屋造りや床柱などに用いられる。
● 谷口杉(たにぐちすぎ/滋賀県)
滋賀県の東北部、谷口集落に残る独特の択伐施業。この集落だけが天領で伐採が厳しく制限されていたのが、必要な分だけ抜き伐りする択伐に繋がったのではといわれている。太径木が主の谷口杉。生長が良く、材は軟らかく淡い赤みを帯びている。

● 足羽杉・河和田杉(あしわすぎ・かわだすぎ/福井県)
福井市の美山地区、鯖江市の河和田地区は古くから林業が盛んな地で、全国的にも有数の大径木の生産地。材は赤みで柾目が美しく、柱や桁、内装材に用いられる。いまは、福井材といわれることが多い。

tateyamasugi

● 立山杉(たてやますぎ/富山県)
立山の山岳地帯に産する天然杉で、樹齢200年から600年、中には1000年を超える古木もある。厳しい自然の中で育ち、年輪幅は狭く、材は硬い。木目が細かくはっきりしているのが特徴。富山県西部のボカ杉などと共に、「とやまスギ」といわれる。

● 根羽杉(ねばすぎ/長野県)
矢作川水源の村、根羽村で産する杉。独特の赤みと光沢が美しい。油分も多く粘りがあり、目の通った優れた特性を持っている。柱、梁、桁材などの構造材や壁板、床板などにも用いられる。

● 遠山杉(とおやますぎ/長野県)
遠山郷(旧南信濃村)の起伏に富んだ地形や湿度、日照時間、霧が立ちやすい気候など、特有の風土に育まれる良材。木質のきめが細かく、美しく、強度に優れ、深い色合いが時を経て味わいを増す。柱などの構造材や床、壁、天井材など幅広く使用されている。

● 長良杉(ながらすぎ/岐阜県)
岐阜県の杉を「長良杉」と呼ぶ。県内の杉資源は長良川流域に多いため、そう名付けられた。「長くて良い杉」という意味も込められている。目が均等で冬目が太いため、仕上がり後の表情が豊か。白太と赤身が混在したものは、源氏と平家の旗色にちなんで「源平」と呼ばれるが、長良杉は源平の美しさが魅力。木目の美しさに定評がある。

● 三河杉(みかわすぎ/愛知県)
温暖、肥沃な地から通直、完満な杉を育て、冬目と夏目のはっきりした年輪の材に。特に鳳来町は代表的生産地。日光東照宮、江戸城にも鳳来寺山中の杉が用いられた。艶のある赤みと美しい木目。天井板をはじめ、構造材、造作材、建具、床板などに用いられる。

● 天竜杉(てんりゅうすぎ/静岡県)
天竜川流域の恵まれた自然環境に育てられた天竜杉。曲がりが少なく、節部への皮の入りも少ない、良質な材が産出される。心材は耐久性、耐水性が高く、淡い赤み、艶やかさに定評がある。表面塗装の必要がないほど、美しい光沢を持っている。

● 青梅杉(おうめすぎ/東京都)
奥多摩一帯、青梅林業地は江戸時代から足場丸太の産地だった。また、江戸庶民の住宅建材としても用いられた。粘りけのある材として、いまは主に柱材に用いられる。

● 山武杉(さんぶすぎ/千葉県)
江戸時代初期から江戸には建材や建具、近隣漁業地帯に船材などを供給してきた山武林業地。ここの杉は生長が早く、通直、完満な材に。心材は美しい淡紅色で、建具、板材、柱材として利用されている。また、この杉は花粉をほとんど付けず、花粉病対策品種のもなっている。

● 西川杉(にしかわすぎ/埼玉県)
江戸の西の川、高麗川・名栗川から荒川を経て送られて来ることから、西川林業地、西川材と呼ばれるように。飯能市周辺は気象条件、土壌が杉や檜の生育に適し、古くから育林技術が発達。「立て木」といい、40〜80年の伐採時に数本残し、100年、200年の太径木に育てる独特の方法がある。西川杉は扱いやすく、建築材、建具材として用いられる。

● 八溝杉(やみぞすぎ/栃木県・茨城県)
八溝山系一帯から産する杉。黒芯材や偏芯材(年輪中心のずれた材)が少なく、年輪幅が一定で木目が美しい。主に建築用材として利用されている。

● 日光杉(にっこうすぎ/栃木県)
日光市、今市市、鹿沼市周辺を産地とする杉で、通直、完満な材が多い。薄桃色で細かい木目の美しい柾目材が得られる。角材、板材として利用されるほか、良質なものは建具に。また、一部は下駄材としても用いられる。日光杉並木街道の杉は樹齢350年以上。特別史跡、特別天然記念物となっている。

● 気仙杉(けせんすぎ/岩手県)
気仙地方の杉で、年輪幅は広く、軽くて軟らかいために加工しやすい。木目が通っていて、芳香も良い。もともと電柱に利用されることが多かったが、現在は柱材、端柄材に用いられることが多い。

●金山杉(かねやますぎ/山形県)
日本一の杉美林がある金山町。そこで産出される銘木の金山スギ。樹齢80年を越えたものが金山杉といわれる。雪深く、長い冬の中で育つために生長が遅く、木目が極めて細かく、赤みを帯びた木肌が特徴。樹齢100年を超える人工林の蓄積量として世界一を誇る。また、金山町有屋大美輪(カネヤママチ アリヤオオミノワ)の大スギの樹高は 59mで日本一。

● 西山杉(にしやますぎ/山形県)
出羽丘陵一帯を「西山」と呼び、そこから産する杉のこと。目詰まりがよく、板目の製品は特に光沢がある。赤みの色彩が鮮明で、高林齢になると一段と色がさえてくる。材質が硬いため、かんな切がとても楽。構造材、端柄材に利用される。

●栗駒杉(くりこますぎ/宮城県)
栗駒山麓から産する杉。製材行程から出る端材などを燃料に、熱と煙で燻煙乾燥するのが特徴。ひずみを少なくし、強度を高め、防虫処理にもなり、シロアリなどを寄せつけにくい。

●秋田杉(あきたすぎ/秋田県)
かつては自然に育った天然ものを指していたが、いまは人工林のものを「秋田杉」、天然ものは「天然秋田杉」と区別。前者は生長が早く年輪幅は比較的広い。後者は年輪幅が狭く、美しい艶があり、強度に優れ、狂いが少ない。太い梁や柱、天井板などにも珍重される。標準的な樹齢は200年から250年といわれる。



Back Number
01. スギは、縄文時代から身近な木でした。
02. スギといっても、硬軟十色。
03. 美味のそばにスギがあった。