01. スギは、縄文時代から身近な木でした。

 

 花粉症で嫌われ者になることもありますが、スギは昔から私たちになじみ深い木。屋久スギ、飫肥スギ、魚梁瀬スギ、吉野スギ、北山スギ、天竜スギ、山武スギ、秋田スギなど、日本の各地にその地の名前がついたスギの品種が存在します。北から南まで日本の各地に見られ、人工林の中で一番多く生えている木です。学名はクリプトメリアジャポニカ(Cryptomeriajaponica)。「日本の」という学名から分かるように、日本固有の樹木、日本だけの木というわけです。直ぐ木(すぐき)が名前の由来といわれ、真っ直ぐに高く生長します。秋田には実に58メートルの木があるとか。スギは日本で一番高くなる木でもあるのです。



 縄文時代から暮らしの中で使われてきたスギ。古代の住居跡から大量のスギ材が見つかることも多く、何千年も前から身近な日本を代表する木であり、日本文化を支えてきたのでした。木を横に挽ける鋸が普及したのは鎌倉時代ですが、縦に挽ける鋸は室町時代までありませんでした。そのため、板を作るには楔を打ち込んで裂いていくしかありません。おそらくスギは真っ直ぐに裂けやすく、作業しやすかったために重用されたと思われます。正倉院の宝物を美しいまま保存してきたのもスギの箱(からびつ)。スギには調温、調湿作用があり、それが宝物の劣化を防いだのでしょう。

 柱や梁、天井板などの建築材をはじめ、障子などの建具、樽や桶、下駄、包装箱、割り箸、それに船の材としても使われるなどスギの用途は実にさまざま。お線香の材料としてもスギの葉っぱが用いられています。葉っぱを乾燥して粉にし、練り固めたものがそれです。因みに、お線香にはこの「スギ線香」とタブの木の樹皮を粉にして香料などを混ぜてつくる「匂い線香」があります。



また、造り酒屋の店先に青々としたスギの葉でできた杉玉が下がっているのを見かけたことがあると思いますが、これは新酒ができた目印として下げられるといいます。

私たちがよく使う割り箸にもスギが使われています。江戸時代に飲食の店と共に普及したそうですが、その頃はひきさきばし(引裂箸)といって竹製だったといいます。スギの割り箸は、奈良の吉野で明治時代に生まれたもの。吉野は、江戸時代から明治時代、樽を作る原材料の樽丸づくりで発展しました。目の細かい吉野スギは、兵庫県の灘や伊丹に送られ、酒樽に仕立てられたのです。では、なぜ樽丸というのか。それはスギの板を樽づくりのために荒削りし、丸く束ねて出荷したため、そう呼ばれるようになったのでした。この行程で出た端材から割り箸が生まれたのです。建築用材の端材や残材、間伐材などからも作られる日本製の割り箸。森林資源を無駄なく活かして使っていくことは、森林の整備にも繋がり、日本の森林の再生に結びつく。日本製の割り箸は、どんどん使っていきたいものですね。



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